東京高等裁判所 平成5年(ネ)2231号 判決 1995年10月30日
控訴人
長嶺豊
外六七三名
右控訴人ら訴訟代理人弁護士
佐藤裕人
同
安田信彦
同
古川靖
右控訴人ら訴訟代理人復代理人弁護士
野間自子
右控訴人ら(松井妙子を除く)訴訟代理人復代理人弁護士
松井妙子
被控訴人
株式会社講談社
右代表者代表取締役
野間佐和子
被控訴人
野間佐和子
同
元木晶彦
同
森岩弘
同
佐々木良輔
同
早川和廣
同
島田裕巳
右被控訴人ら訴訟代理人弁護士
河上和雄
同
山崎惠
同
的場徹
同
成田茂
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴審における新請求について、
(一) 被控訴人株式会社講談社、同元木昌彦は連帯して控訴人景山民夫、同伊東知子に対し、それぞれ金二五万円及びこれに対する平成四年六月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 被控訴人島田裕巳は控訴人景山民夫に対し、金一〇万円及びこれに対する平成四年六月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(三) 控訴人景山民夫、同伊東知子のその余の新請求及び右両名以外の控訴人らの新請求をいずれも棄却する。
三 控訴人景山民夫、同伊東知子と被控訴人株式会社講談社、同元木昌彦との間においては、訴訟費用を第一、二審を通じて四分し、その三を右控訴人らの、その余を右被控訴人らの各負担とし、控訴人景山民夫と被控訴人島田裕巳との間においては、訴訟費用を第一、二審を通じて一〇分し、その九を右控訴人の、その余を右被控訴人の各負担とし、以上を除く各当事者間においては、控訴費用を控訴人らの負担とする。
四 この判決は、第二項(一)及び(二)に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
(1) 原判決を取り消す。
(2) (主位的請求及び当審において追加した予備的請求として)
被控訴人らは、連帯して、各控訴人に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成四年六月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
(4) 仮執行宣言
二 被控訴人ら
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 当審における新請求を棄却する。
(3) 控訴費用は、控訴人らの負担とする。
第二 事案の概要
本件は、宗教法人幸福の科学(以下、右宗教法人ないし右宗教を「幸福の科学」という。)の正会員であって右宗教に帰依していると主張する控訴人らが、被控訴人株式会社講談社(以下「被控訴人講談社」という。)の発行する諸雑誌等に掲載された記事において「幸福の科学」、その本尊とされる大川隆法こと中川隆(以下「大川隆法」という。)及び控訴人らが中傷されたことにより、主位的には控訴人各自の宗教上の人格権、宗教伝道に関する自由権及び一部の控訴人らの営業上の利益を害されたとして、予備的には控訴人各自の名誉が毀損されたとして、右雑誌等の出版社、その経営者、編集人、執筆者に対し慰謝料の支払いないし財産上の損害の賠償を求めたものである。
一 控訴人らの主張
1 訴えの変更の適法性について
被控訴人らは、控訴人景山、同伊東が控訴審においてした名誉権侵害の主張の追加を訴えの変更に当たるとし、右訴えの変更は許されるべきでないと主張する。しかし、そもそも控訴人らの本件請求は、被控訴人らの一連の「言論の暴力」とも評すべき生活事象に基づき、これによって生じた損害の賠償という一個同一の給付を求めるものであって、包括的に一個の訴訟物を構成するものというべきである。したがって、一審以来の宗教上の人格権の侵害の主張と、控訴審で追加した右控訴人らの名誉権の侵害の主張は、一個の訴訟物に関する異なる攻撃方法であるに過ぎず、訴えの変更の問題は生じない。
仮に右主張が理由がなく、右名誉権侵害の主張の追加が訴えの変更に当たるとしても、右名誉権の侵害を招いたのは、宗教上の人格権侵害を招いた一連の捏造・誹謗記事の中の一部の記事であるから、両者は前法律的な利益紛争関係を共通にしており、請求の基礎は同一である。しかも、右主張が追加されたことによって新たな証拠調べを必要とすることにもならないから、訴訟手続の遅滞を招くこともない。したがって、右訴えの変更は適法である。
2 控訴人ら及び被控訴人らの地位
控訴人らはいずれも大川隆法を代表役員かつ本尊とする「幸福の科学」の正会員であり、控訴人景山民夫は小説家、控訴人小川知子こと伊東知子(以下「控訴人伊東」という。)は俳優兼歌手である。
被控訴人講談社は、週刊誌「週刊現代」、同「フライデー」、月刊誌「現代」(以下「月刊現代」という。)を発行する出版社であり、そのほぼ全額出資に係る株式会社日刊現代(以下「日刊現代社」という。)が日刊新聞「日刊ゲンダイ」を、その全額出資に係る株式会社スコラが旬刊誌「スコラ」を発行している。
被控訴人野間佐和子は被控訴人講談社の代表取締役であり、被控訴人元木昌彦は、別紙「被告講談社による幸福の科学関連記事の見出しと新聞広告の見出し一覧表」(以下「別紙一覧表」という。)記載の記事(以下「本件各記事」という。なお、右一覧表中の記事内容の表示は新聞広告の見出しによる。)が、「フライデー」に掲載された当時、同誌の編集人だった者、被控訴人早川和廣は、別紙一覧表記載のとおり、本件各記事の一部を「フライデー」に執筆した者、被控訴人森岩弘は、本件各記事が「週刊現代」に掲載された当時、同誌の編集人だった者、佐々木良輔は、本件各記事が「月刊現代」に掲載された当時、同誌の編集人だった者、被控訴人島田裕巳は、別紙一覧表記載のとおり、本件各記事の一部を「月刊現代」に(平成四年五月には「週刊現代」にも)執筆した者である。
3 「日刊ゲンダイ」及び「スコラ」と被控訴人講談社との関係
被控訴人講談社は、少なくとも本訴訟が提起されるまでは、「日刊ゲンダイ」を同被控訴人の出版物の一つとして宣伝し、平成五年二月の株主総会の際に削除されるまでは、「日刊ゲンダイ」の売上げを株主総会に報告していた。これに、出資関係や人的関係を考慮すると、「日刊ゲンダイ」は、実質的には、被控訴人講談社が発行しているものといえる。
「スコラ」も、出資関係や人的関係から見て、実質的に被控訴人講談社が発行しているものといえる雑誌であり、少なくとも被控訴人講談社グループのメディアと見られる雑誌である。
4 捏造、誹謗中傷記事の掲載
被控訴人らは、共謀の上、一連の「幸福の科学」批判のキャンペーンを展開することを企て、別紙一覧表に記載したとおり、控訴人の所属する「幸福の科学」及び控訴人らの信仰の対象たる本尊である大川隆法に関する誹謗中傷記事(その中には明らかな捏造記事を多数含む。)である本件各記事を、平成三年五月から同年一一月までのわずか半年の間に三四本(その後平成四年五月に掲載された一本を加えれば三五本)も執筆・掲載した上、これら雑誌・新聞を販売し、またこれら記事について広告活動を行った。
仮に全体の記事執筆・掲載行為についての共謀が存しないとしても、少なくとも各雑誌・新聞ごとに、これを執筆し、掲載した者の間に共謀ないし民法七〇九条、七一五条に基づく不真正連帯債務を負うべき関係が成立している。すなわち、各記事の執筆者がその執筆した記事について責任を負うのは当然であるが、編集人たる被控訴人らは記事を掲載するにあたって、その内容が他者の法益を侵害しないよう注意を払うべき義務があり、出版社である被控訴人講談社も右のような内容の記事を含む雑誌を出版・販売しないよう注意を払うべき義務を負い、また、編集人の使用者としての責任をも負う。さらに、被控訴人野間は、被控訴人講談社の代表取締役として、不法な出版・販売を中止するための措置をとるべき義務を負うものである。
本件各記事のうち、「幸福の科学」や大川隆法に対する誹謗中傷にわたる部分の内容の要点は、別紙一覧表に掲げた見出し自体によって明らかなもののほか、以下に摘録するとおりであるが、これら記事自体のほか、右一覧表に記載されたようなその見出しが、電車の中吊り広告や、各々数百万部単位で発行されている複数の全国紙を中心に掲載された新聞広告中に掲げられることにより、社会に誤解と偏見をまき散らし、控訴人らの心を深く傷つけたものである。
(一覧表その1関係)
(1) 平成三年五月九日発売「スコラ」(五月二三日号)
「幸福の科学」が「マルチ商法ばりの驚異的スピードで急成長中」だが、その秘密は正会員になるためには一〇冊の大川隆法の著作を読まなければならないシステムにある。「だが、この本をどう読んでも、夢中になって読むほどの魅力があるとはとうてい思えない。それどころか、何が言いたいのかさっぱりで、首をかしげたくなる箇所が続出なのである。」「それにしても、こんな疑問だらけの、そして人工的な宗教が人々にうけるのか。ひとつの鍵は、『幸福の科学』が試験制度を導入している点にあるように思える。」「熱心な会員は必死に上にあがろうとし、大川隆法の本を買い、勉強しているのである。」との記事。
(2) 同月一三日発売「週刊現代」(五月二五日号)
①女子大生の娘が「幸福の科学」の信者になったというある母親は、「入ったら最後、布教活動に追われて、経済的負担も増すばかり。学校なんかそっちのけです。娘は日々『幸福の科学』の奥へ奥へと引き込まれていく感じです。」と嘆いている、②宗教家の遺族の中には、無断引用されたとして大川氏を訴える動きもある、との記事。
(3) 同月三一日発売「フライデー」(六月一四日号)
「肝心の(大川隆法)の講演の中身だが『君たち東大生は【選ばれた者】なのだから、人から賞賛(ママ)を求めるような【奪う愛】をやめ、【与える愛】へと切り替えなさい』と『選民思想』を口にしながらも、教授が学生に話すような調子」、「『うさん臭いヤツだなと思っていたけど、エリート主義色が強いですね。昨年暮れ頃から学内にビラが目立つようになりましたけど、中身は常識的な話と妄想が入り交じって矛盾だらけという印象を受けました』(男子東大生)と、信者以外の学生の心を掴むまでには至らなかったようだ。」、「『幸福の科学』はいかにも『東大卒教祖』の宗教らしく、入会するには、大川氏の著作を一〇冊読んで論文を提出しなければならないし、『講師』となるにも、昇格試験を受けなければならない。まるで、受験の延長だが、そんな制度があるものだから、一二〇冊近い大川氏の著作は、出せば売れるベストセラー。この辺は受験生を食いものにする受験産業にも似ている。」との記事。
(4) 同月二四日発売「週刊現代」(七月六日号)
①「宗教法人として認可されてから、おカネの動きが激しくなりました。この前、紀尾井町ビルの本部で、ちょうどみかん箱くらいの段ボールが数個、運び込まれているところに居合わせたんです。経理の人に『あれはコレですか』って現金のサインを指でつくったら、その人は口に指を当てて“シー”というポーズをした後、『そうだよ。でも、他の人にいってはダメだよ』といいました」、「最近は、『カネのある社長族を落とせ』『集金マシーンになるトップセールスマンや、創価学会の幹部を入会させろ』と支部長が檄をとばすんですからね。」、「六月一六日、広島で行われた講演で大川氏はこんなことをいっていました。『最近、会員の中には霊がわかるという人がでてきたようだが、皆、そんな人に惑わされないように。もともと、その霊能力も私が授けたものなんだから。』自分以外の者が勝手なことをしたり、注目を集めるのが許せないんです」との、「幸福の科学」の中堅会員あるいは元会員(いずれも匿名)の談話記事、②大川隆法の最終的な目的は政界進出である旨の記事。
(5) 同年六月二四日発売「日刊ゲンダイ」(六月二五日号)
「幸福の科学」が某都市銀行から三〇〇〇億円を借り入れたとの噂がある、との記事。
(6) 同月二五日発売「日刊ゲンダイ」(六月二六日号)
「『大川氏は宗教、学問、仕事、恋愛の四重のコンプレックスを抱え、それをバネに宗教家として出発している』といってもいいのだ。」「(大川氏に対して)精神的なよりどころのない若者や、宗教遍歴に疲れた人たちがコロッといかれるのもよく分かる」「大川氏が、いま、力を注いでいるのは、『正会員一人が十人の誌友会員をつくれ』とシャカリキになっての会員集め。そして三千億円の浄財を集めて、七十七階建ての本部ビルや各地の施設の拡充だ。これでは『本当は何をしようとしているのか』と疑問を持たれても仕方あるまい。」などの記事のほか、「『古今東西の宗教ランチの調理師』のような大川隆法氏」という記述も見られる。
(7) 同月二六日発売「日刊ゲンダイ」(六月二七日号)
「大川隆法氏にそれほど宗教的、哲学的な崇高さが感じられるわけではない。」「大川氏の一一三冊の著書も、内容は稚拙、幼稚である。」「『宗教というよりは、会員を増やすための方便で、それをもとに政教一致の国家を目指しているのではないか』(三土修平氏)」「『大川氏が霊になって話をしているテープを聞きましたが、まるで学芸会のようでした』(宗教関係者)」「『効き目もなく副作用もない薬のような、若者受けするファジーな宗教』(宗教評論家の早川和廣氏)」「日本女子大文学部助教授の島田裕巳氏はこういうのだ。『幸福の科学の拡大の仕方はネズミ講と同じですね』」等の記事。
(一覧表その2関係)
(1) 同年七月二二日発売「週刊現代」(八月三日号)
①「都内のある支部の支部長は、今回のイベントの前にこんなゲキを会員たちに飛ばしたという。『今度の御生誕祭には総費用が六〇億円かかります。それを各支部で負担することになりました。この支部では一億七〇〇〇万円集めることに決定しました』このため、イベント直前に開かれた『幸福の科学』の支部集会は『学習会』というより『集金報告会』だったという。」との記事、②「『幸福の科学』は、教祖の『御生誕祭』開催に際し、会員にチケット販売と寄付のノルマを課していたのだ。」との記事。
(2) 同年八月五日発売「月刊現代」(九月号)
「『ノストラダムス戦慄の啓示』という本があるんです。……その内容は二十世紀から二十一世紀にかけて、日本以外の国は滅びるという。」「『幸福の科学』は、自分たちが拡大していくことにおカネをすべて注いでいる。……彼らが本当に一体なにを目的にしているのかよくわからない。……まさにバブル宗教ですよ。」「日本のダメさの象徴が『幸福の科学』で、あんなのにかかわりあっていたらほんとに日本人はどうなるかわからないですよ。」との被控訴人島田の対談中の発言記事。
(3) 同年八月九日発売「フライデー」(八月二三・三〇日号)
被控訴人早川の執筆にかかる、「石原秀次(正しくは石原常次)氏は語る。『彼(大川隆法)がまだ、商社にいるころでした。ぼくのところに、ノイローゼの相談にきました。【GLAの高橋佳子先生の“真創生記”を読んでいるうちにおかしくなってしまった。自分にはキツネが入っている。どうしたらいいでしょうか】と。分裂症気味で、完全に鬱病状態でした。ノイローゼの人は名前や住所を隠す場合が多いんですが、彼も中川一郎(本名は中川隆)と名のっていました。』その青年が、数年後の現在、霊言の形を借りては、あらゆる宗教家、著名人になりかわり、ついには自分は『仏陀である』と語るのだ。宗教の魔訶不思議な作用というには、あまりにいかがわしさがつきまとっているとはいえまいか。『彼らがやっていることは金儲けにしか見えないですね。そのために過去の先人たちを利用しているだけのことで、ぼくが見たところ、大川さんには相当な“魔王”がついていますよ』(石原氏)」「元会員のA君は、やめていく会員に対する脅しについて、こう語った。『幸福の科学は【いつでも入れて、いつでも抜けられる】と言うけれど、実際にはそうじゃない。抜けようとすると、【悪霊の祟りがあるぞ】といって脅される』」等を述べる署名記事。
(4) 同月二三日発売「フライデー」(九月六日号)
被控訴人早川の執筆にかかる、「その彼(大川隆法)がトーメンをやめるころには同僚に『お前の背中に狐がついている』と言ってお祓いを始めたこともあった。」「大川氏は『父親の操り人形』『成績優秀な兄に負けまいと一生懸命だった』といわれるほどなのだ。」等を述べる署名記事。
(一覧表その3関係)
(1) 同年九月五日発売「月刊現代」(一〇月号)
被控訴人島田の執筆記事。リード部分は「単なる古今東西の宗教の寄せ集めで体系性を欠いた思想、『日本だけは大丈夫』の怪説――会費ダンピングで数だけ増やす“危険な宗教”の狙いと本当の正体を見誤るな」
本文として、「幸福の科学は、まさに『バブル宗教』である。その目的は自分たちの組織を拡大することにしかない」「大川隆法の『正体』は、せいぜい落ちこぼれのエリートでしかないのだ」「平凡なエリートの落ちこぼれと宗教好きの父親という組み合せが。幸福の科学の『正体』である」等。
(2) 同年九月六日発売「フライデー」(九月二〇日号)
被控訴人早川の執筆にかかる、「(幸福の科学は)全国から組織をあげての嫌がらせの電話を(被控訴人講談社に)集中し、FAXで抗議文を連日二四時間流し続けた。……その結果、編集部の電話とFAXは、まったく使用不能の状態に陥っているのだ。……今回の抗議行動を率先して指揮し、けしかけているのは大川氏自身なのだ。」との署名記事
(3) 同月一〇日発売「週刊現代」(九月二一日号)
リード部分には次のような記述がある。「社屋になだれこんだ挙げ句、二四時間イヤガラセ電話・ファックス攻勢」「電話・ファックス攻撃、デモ、イヤガラセ等などで小社の言論を圧殺しようとする『幸福の科学』のやり口は、他教団をも脅かす前代未聞の卑劣なもの。ここに信者増で自己肥大してしまった大川隆法氏自身の傲慢さを感じざるをえない。」
本文では、①「幸福の科学」の会員と称する者からの嫌がらせ電話の具体例や、その中で幹部からの指令で電話をかけていることを窺わせる例を逐語的に掲載し、②ファックス攻撃について「用紙の上に打ち出された送信元をみると、『コウフクノカガク』の文字もあった。『幸福の科学』本部からも直接送られてきていたわけだ。」などと述べ、③板倉宏(大学教授)の、電話攻勢は業務妨害に、社屋内に押しかけシュプレヒコールをするのは建造物侵入と威力業務妨害にあたるなどの見解を紹介し、④初期の元会員(匿名)の、「幸福の科学」は最初は心の安らぎとか、幸福とかを求めていたはずだが、いつかそれがおカネや会員集めにすりかわってしまった、とのコメントを紹介する。
(4) 同月一二日発売「フライデー」(九月二七日号)
①「(フライデー編集部に対する嫌がらせの電話、FAX攻勢について「幸福の科学」の)組織の指示があったことは、六日夜、一斉に嫌がらせ電話とFAXが止んだことでも明白だが、本誌記者がある統括本部に入れた電話にも『T(電話)作戦は中止になりました。これは本部の指令ですから間違いありません』と答えている。」との記事、②(「フライデー」側が「大川隆法がノイローゼの相談に来た」という自分の発言を捏造したと石原常次が述べたことへの反論として)「当の石原氏は『サンデー毎日』の取材に、本誌に語った証言を翻した点について『怖さを天秤にかけたら【幸福の科学】のほうが怖かった。だから、謝りの電話を入れたんです。(注・「幸福の科学」側の)証言文に署名したのは、間違いでした』と語っている。」との記事、③「幸福の科学」は市民運動をかたり、盛んに世論を味方につけようとしているが、二〇〇万信徒を自称する集団が、(「フライデー」廃刊の)署名が七〇万人集まったと自慢すること自体、会員数の水増しをしていた事実を証明している、との記事等。
(5) 同月一六日発売「週刊現代」(九月二八日号)
この記事のリード部分には、「悪質なデマ・中傷とイヤガラセを繰り返す“問題教団”」とか、「九月二日から様々な業務妨害をした会員たち」とかいう表現が見られる。本文は、①「(注・幸福の科学の元会員の話として)『(大川氏は)教団の運営は、ごく限られた“腹心”たちと決めていました。会員の動向は、その腹心たちから毎日上がってくる【業務報告】で把握していました。ただこの報告が問題。ここで悪くいわれた人は、すぐ教団を追い出されました。みんな、この報告のことを陰でゲシュタポ・レポートと呼んでいました』当初からこの集団は“問題教団”になる危険性をはらんでいたのである。」という記事、②入手した「幸福の科学」の内部文書によれば、「幸福の科学」は、自らの名を隠し、市民運動の体裁を作って、被控訴人講談社に対し、電話、ファックス、手紙、デモにより「フライデー」の即時廃刊等を目的とする抗議活動を企てているとの趣旨の記事、③大川隆法に対する不信から、「幸福の科学」の会員の脱会が続出しているとの趣旨の記事、④大川隆法がある画家と銀座の高級クラブで飲んだという記事など。
(6) 同月二〇日発売「フライデー」(一〇月四日号)
被控訴人早川の執筆にかかる、①同年九月一五日に行われた「幸福の科学」の講演会において、大川隆法が「『救世主』への絶対的な帰依を説き、全マスコミを批判」し、マスコミを「言論の自由という仮面を被った悪魔」と言いたい放題を述べたこと、②古くからの会員が、最近の大川隆法は、取り巻きがイエスマンばかりでブレーキをかける人がいないので、言うことや態度が大きくなったと批判していること、③「幸福の科学」をかつて物心両面で援助した高橋守氏は、「幸福の科学」の出版部門を株式会社にして、これから収益も上がろうという時に突如すべての仕事を奪われ、退会届を叩きつけたことなどの署名記事。
(一覧表その4関係)
(1) 同年九月二三日発売「週刊現代」(一〇月五日号)
①「『幸福の科学』の幹部の全国的な集会で、総合本部の大幹部が有名人会員の名前を一人一人読み上げた。(自分達は)会員獲得の際は必ずこうした有名人の名を出して説得している。」という、ある会員の談話なるものを引用して、「幸福の科学」が財界人の名前を会員集め、カネ集めに利用し、中小企業のオーナーなどをスポンサーにしている旨を報道する記事、②「幸福の科学」総合本部財務局が作成した「ミラクル資金の推進について」という文書によれば、「幸福の科学」は、三〇〇〇億円の資金獲得を目標とし、「今世の伝道を支える物施の修行により、六次元から大黒天そして七次元菩薩になっていただくための戦略」と称してマニュアルにより会員にスポンサー探しをさせている旨の記事、③大川隆法が有名人好きである反面、親類縁者に対しては冷淡である旨の記事、④世界文化社刊行の「神化論―神との遭遇」という本が実質上「幸福の科学」の編集したものであり、この本に対談を載せられた有名人の中には「幸福の科学」の会員と誤解されて困惑している者がいる、との記事。
(2) 同年九月二七日発売「フライデー」(一〇月一一日号)
①被控訴人早川執筆にかかる署名記事で、「幸福の科学」が莫大な資金集めに躍起になっている。すなわち、「公益法人設立基金募集の趣旨」(平成元年一〇月二〇日付)という文書によれば、公益法人設立基金として、正会員だけでなく誌友会員に対しても基金の寄付を求めており、更に平成二年からのミラクル資金計画では「大伝道を支援するため大々的な広告を予定しており、二〇億円、あるいは一〇〇億円の資金が必要であるとされている旨の記事、②平成二年から会員七万七千名達成を目標に始まった推薦入会制度では、正会員からの推薦さえあれば、入会願書の審査なしで正会員になれることになった。勧誘の方法も、勉強会や雑誌の定期購読への勧誘のように装って誌友会員にするなどマニュアルによって巧妙に行われており、人集めやカネ集めが至上命令とされている旨の記事、③「フライデー」廃刊の署名運動では、会員である教師が生徒から署名を集めるなどの不明朗な手段がとられている旨の記事等を内容とする。
(3) 同年九月三〇日発売「週刊現代」(一〇月一二日号)
①同年九月一六日発売同誌(一覧表その3関係の(5))に掲載されたゲシュタポ・レポートに関する記事につき、右レポートの存在を再確認する会員や元幹部の談話記事、②「幸福の科学」が、ブラックリストにより、教祖タイプ、霊能者タイプの会員たちを排除しようとしていた旨の記事、③前記九月一六日発売同誌に掲載された、大川隆法が某画家と銀座の高級クラブで飲んだ等の記事を再確認する趣旨の右画家の談話記事、④「フライデー」廃刊の署名運動が、市民運動を称しながら、実体は「幸福の科学」の運動である旨の記事、⑤その他、「幸福の科学」が会員集めや資金集めに躍起になっている旨の記事。
(4) 同年一〇月四日発売「フライデー」(一〇月一八日号)
被控訴人早川の執筆にかかる、「幸福の科学」が伝道の名の下にカネ集め、人集めに奔走しており、教義よりも人や金集めに重点を置いて人材を登用している旨の署名記事。
(5) 同年一〇月五日発売「月刊現代」(一一月号)
被控訴人島田の執筆にかかる、①大川隆法は、「幸福の科学」の組織が拡大していくにつれて神格化され、仏陀の生まれ変わりとして祭り上げられるようになった、②大川隆法自身が、世俗社会での成功を求める権力への欲望を持っている、③「幸福の科学」は、宗教について学ぼうとする知的な集団から、カリスマ的な指導者を求める大衆の運動に変質した、④拡大路線がとられることによって、巨大教団を作り上げ、その中で権力を振るうことに生きがいを感じるような人間が会員として入ってくるようになった、⑤イメージ戦略による拡大路線をとった結果、イメージだけの、実体を持たない巨大教団、つまりバブル宗教が生み出され、組織の危機が始まった、⑥月刊誌「幸福の科学」や大川隆法の著書の発行部数も低下している、⑦「フライデー」に対する抗議行動も、バブル化した教団の危機をカモフラージュするものである疑いが強い。抗議行動を契機に組織固めをねらい、社会からの迫害によって後退を余儀なくされたという理由をつくることで、拡大路線を収拾しようとしているのではないか、⑧「幸福の科学」の教え自体が、抽象的で内容を欠いた愛や慈悲の教えを説くにすぎないところに、教団崩壊の一因がある、等の内容の署名記事。
(6) 同年一〇月七日発売「週刊現代」(一〇月一九日号)
佐伯真光(大学教授)の「大川隆法氏の言葉には個性がない」との談話、段勲(宗教ジャーナリスト)の「幸福の科学が元創価学会員を重用しているのは、学会のノウハウを使って会員とカネを集め、組織を維持拡大していこうという意図からだろう」との談話、被控訴人島田の「大川氏のいう『エル・カンターレ』という考え方は故・高橋信次氏のコピーだ。それに『生長の家』のやり方も取り入れている。初期の大川氏のテープを聞くと、手を打ったりしただけで簡単に霊が降りてくるので唖然とする」との談話等を紹介する記事。
(一覧表その5関係)
(1) 同年一〇月一一日発売「フライデー」(一〇月二五日号)
被控訴人早川の執筆にかかる、①大川隆法が住んでいるという借家が部屋の中まで水が流れ、敷石まで施されている豪華な邸宅であること、②教団の貴重な収入源となっている幸福の科学出版株式会社(以下「幸福の科学出版」という。)の売上高は平成二年五月期で三一億円となっているが、内実はあまり芳しくなく、平成三年八月分の全国二〇一支部に割り当てられた目標額五億円は、四分の一程度の達成率にとどまったこと、③「幸福の科学」で出版している書籍の部数は三〇〇〇万部を突破したとされているが、書店ルートの販売分は多めに見ても二五〇〇万部程度と推定されること、④ある会員の話によれば、「幸福の科学」は、平成三年七月までに一〇〇億円の寄附金を集める予定だったが、目標を達成できなかったこと、⑤「幸福の科学」及び幸福の科学出版が銀行から多額の借金をしていること等の署名記事。
(2) 同月一四日発売「週刊現代」(一〇月二六日号)
①「大川氏の本は口述筆記で作られていたが、大川氏がいつどこでテープに吹き込んだのかよくわからない」との高橋守(元「幸福の科学」活動推進委員)の談話記事、②(大川隆法の著作に、様々な人物の霊が同人に降りて語ったとしてその言葉が紹介されている点について)「昭和六二年頃、大川さんに話し合いを求め、更に『あなたに降りてくる高橋信次氏先生の霊が本物だというのならば、私たちの前で呼び出してください』という内容証明郵便を送ったが、まともな返事はなかった」旨の宗教教団GLA(ゴッド・ライト・アソシエーション)総合本部の談話記事、③「いくら(生長の家)本部が大川氏に反論しても、『それは谷口(雅春)氏の霊が私に語ったことだ』といわれると、反論のしようがない。大川氏は新興宗教の泣き所を突いている」との宗教ジャーナリスト(匿名)の談話記事、④「霊媒なんて言語道断、大川氏はニセ預言者に他なりません」との尾形守(牧師)の談話記事、⑤「最澄は大川のような人をこそ救いに赴いたのかも知れない」との山田能裕(天台宗参務)の談話記事。
(3) 同月二一日発売「週刊現代」(一一月二日号)
①「幸福の科学」の収入源は、大川隆法の書籍・テープ・小冊子の売上げ、会費、植福という寄付が主なものだが、そのいずれもが先細りのようで、頼みの綱は寄付だが、東京の北部統括支部の「ミラクル資金予約状況」という文書によれば、二億七六〇〇万円の集金目標を達成するため会員一人が一〇〇万円以上を「幸福の科学」に貸し付けるようになっているとの記事及び個別訪問で無理やり一〇〇万円単位の布施を求められたとの名古屋在住の会員(匿名)の談話記事、②「幸福の科学」は銀行から多額の借金をしているが、ある銀行では、事業内容、事業計画の見通しがはっきりしないので、昨年暮れ頃から新規融資には応じていない旨述べているとの記事、③「講談社=フライデー全国被害者の会」(以下「被害者の会」という。)と「幸福の科学」とを同一視した上で、右会への賛同者が全くいないかのようなエピソードを掲げ、その支持拡大のための作戦が不発に終わったとする記事、④大川隆法はかつて、平成四年の七月には全国で一〇〇万人の会員を有したい。今世紀中に全国民を会員にしてみせると言ったが、その後次第に発言内容を修正し、予言がはずれたときの逃げ道を用意している、との記事、⑤「幸福の科学」が新たに刊行した写真雑誌「エスカレント」について、都内の某支部では中堅幹部を集めて行われた会議で、行列を作って買うなど人目に触れるような手段を講じるよう指示がされたが、実際には余り発行部数は伸びていない旨の記事。
(4) 同年一〇月二五日発売「フライデー」(一一月八日号)
①一〇月九日から一四日までドイツのフランクフルトで開かれた国際見本市会場で、「幸福の科学」の会員が自分たちの意見広告を載せた地元紙を配ったり、会場前に横断幕を掲げたりしたが、意見広告はドイツ国民にはチンプンカンプンの内容だし、新聞の配布もすぐ制止され、横断幕も、記念撮影だけするとすぐ消える始末で、かえって「幸福の科学」のイメージを失墜した旨の記事、②被害者の会の会長を名乗る控訴人景山は、「幸福の科学」会員らに対し、被控訴人講談社の業務妨害行為禁止を求める仮処分申請が東京地裁で却下された、講談社と日刊現代社の言うことを裁判所が筋が通らないとしたもので、これは第一回の勝利だ、と演説したが、これはとんでもない大ウソで、被控訴人講談社の主張は全面的に認められている、会員をウソで洗脳する「幸福の科学」の怖さが、改めて明らかになった、との記事、③右仮処分申請却下決定は、内容的には、正当な抗議行動でないこと、教祖の指示の下に行われたものであることを裁判所が認めた上で、抗議行動が止んだので、必要性、緊急性がないとして申請を却下したものであり、実質的には被控訴人講談社の勝訴である、今後の偽計業務妨害罪などの裁判でも、「幸福の科学」側の敗訴の可能性が高い、との板倉宏(大学教授)の談話記事。
(5) 同年一〇月二八日発売「週刊現代」(一一月九日号)
①前記(4)の「フライデー」の記事と同様のフランクフルトの国際見本市での出来事に関する記事のほか、同見本市の幸福の科学出版の出展ブースでは大川隆法の講演ビデオを大音量で流し、事務局から注意されたほか、来場者の不評を買った旨、右見本市の際、被害者の会の会員が被控訴人講談社側に対し社長との面会を要求して押し掛け、その交渉の状況を写真に撮るなどした旨、「幸福の科学」側が地元新聞に持ち込んだ意見広告の原稿が表現に不適切な点があるとして削除を求められた旨の記事、②仮処分申請却下決定に関する前記(4)の「フライデー」の記事と同旨の記事、③「幸福の科学」が出版妨害工作をしているとの記事。
(一覧表その6関係)
(1) 同年一一月五日発売「月刊現代」(一二月号)
被控訴人島田執筆にかかる、大川隆法に対する心理分析や同人がなぜ組織的業務妨害を行ったかについてその内面を推測することを内容とする署名記事。
(2) 同年一一月一二日発売「フライデー」七周年総集編(一一月二六日号)
①「『幸福の科学』は、宗教法人というより大川隆法のワンマン出版社の要素が強い、その著作を読むことによる昇給システムが偏差値教育を受けてきた若者たちにウケたのだろう」との趣旨の新興宗教研究者(匿名)の談話記事、②「フライデー」が報道した大川隆法の“過去”がご本人の逆鱗に触れ、非常識な抗議行動に出たのはご承知のとおりだが、これらの行為は東京地裁により正当な抗議行動とはいえないとされた旨の記事、③「マスコミを敵にまわし、社会的に孤立するほど大川氏への求心力が増し、教団にとって都合がいい、だからこそ、現在、教団は三千億円ミラクル献金などという宗教らしからぬキャンペーンを始めた」との「幸福の科学」元会員(匿名)の談話記事。
(3) 平成四年五月二五日発売「週刊現代」(六月六日号)
被控訴人島田の執筆にかかる署名記事。大川隆法の正体はせいぜい落ちこぼれのエリートでしかない、その落ちこぼれのエリートと宗教好きの父親という組合せが「幸福の科学」の正体だ、との「月刊現代」平成三年一〇月号の記事内容を転載するほか、控訴人景山につき、同人が法廷で被控訴人島田に対して首切りのサインを示して恫喝したとか、精神的に子供だから自分なりの判断力を持たずに言われたことをそのまま鵜呑みにしてしまう人物だ、などと述べるもの。
5 本件各記事を執筆・掲載する行為の違法性・控訴人らの被害の直接性
被控訴人らは、捏造記事を中心とした悪質な誹謗中傷記事である本件各記事(その広告を含む。以下においても同じ。)を執筆・掲載することによって、公然事実を摘示して「幸福の科学」及び大川隆法に対する社会一般の評価を低下させたものであり、しかも、僅か半年の間に三四本もの記事をそれぞれ数十万部の発行部数を有する複数の雑誌・新聞に執筆・掲載したものであって、右は刑法上も保護されている宗教感情を甚だしく害する行為であること、国際人権B規約によって禁止されている宗教的憎悪を唱道する行為であること、マスコミの公共的性格に背馳する行為であることからいって、その違法性は明らかである。
また、そもそも宗教の核心をなすのは宗教的「確信の存続」であり、この確信の対象を攻撃してその存続を脅かす行為こそが、宗教又は信仰に対する最も直接的な加害行為である。信教を理由として差別的取扱いを受けたとしても、あるいは布教の自由を制限されたとしても、「確信の存続」に対する関係では、全く間接的な侵害に過ぎない。あくまでも「確信の存続」という上位価値を守らんがための「信教の自由」の保障であり、差別的取扱いの禁止や布教活動の自由である。本件に即して言えば、「幸福の科学」は、大川隆法を「現成の仏陀」と信ずるところに成立している団体であるから、同人に対する誹謗・中傷は、控訴人らの「確信の存続」を最も直接的に侵害するものであり、これにより控訴人らの受ける被害は直接的被害というべきものである。
なお、仮に控訴人らを間接被害者とみるべきであるとしても、相当因果関係の範囲内の損害である以上、間接被害者について生じた損害についても不法行為責任を肯定すべきところ、控訴人らと本尊たる大川隆法との精神的結びつきの深さから言って、本件各記事により控訴人らの被る精神的苦痛は客観的に把握可能であるから、これを保護すべきである。
6 控訴人らの被った損害
(一) 宗教的人格権の侵害
(1) 内心において仏・神を信ずる自由の侵害
控訴人らは、本件各記事により、あるいはその信仰を動揺させられ、あるいは記事そのものの冒涜的な記述のため心を傷つけられ、あるいは記事の内容を真実と信じた家族、友人、知人の不当な言動に遭遇し、これらによって心の静穏を害され、苦しみを味わった。
(2) 信仰告白の自由の侵害
控訴人らの家族、友人、その他の人々が本件各記事を信じ、「幸福の科学」や大川隆法を誤解した結果、控訴人らは、その信仰を維持することの代償として、これらの人々との人間関係の破綻を耐え忍ばざるを得なくなり、また、右誤解に基づく差別的取扱いを受け、時として実名を挙げて罵倒された。これらは、控訴人らが受けた信仰告白の自由に対する侵害の一面を示す類型的事実である。
(3) 僧団(宗教団体)形成・維持の権利の侵害
前記のような、信仰の動揺、誤解による差別的取扱いなどにより、控訴人らは、宗教団体を形成・維持する上での精神的苦痛を味わった。
(4) 伝道の権利の侵害
本件各記事により、大川隆法がいかがわしい人物であり、「幸福の科学」がいかがわしい宗教であると友人、知人等が誤解し、このため伝道活動が阻害された。
(5) 経済的側面も含んだ宗教的繁栄権の侵害
控訴人らのうち、「幸福の科学」の会員であることを標榜して会社経営や店舗営業等の客商売をしていた者らは、本件各記事により、大川隆法ないしは「幸福の科学」に対する悪評が流布された結果、会社や店の信用低下、売上げの大幅な減少を来し、これにより精神的損害を受けた。
(二) 財産権の侵害
控訴人秋山征子、同飯川壽々子、同小野澤智子、同梶原家富、同金枝正明、同坂下和子、同坂下房枝、同清水修、同直江一幸、同中島代史江、同西川正男、同平本靖夫(以下「控訴人秋山ら一二名」という。)は、本件各記事により、その信用を低下させられ、営業活動を阻害され、財産的損害を被った。すなわち、
(1) 控訴人秋山征子は保険代理店を経営しているが、仕事を通じて活発に伝道活動を行い、得意先に「幸福の科学」の話をしたり、献本をしたりし、多くの得意先が会員になった。ところが、本件各記事が掲載された平成三年八月頃から、顧客たちが「幸福の科学」ひいては同控訴人に対して露骨な不信感を示すようになり、誤解を解こうとして努力した甲斐もなく、五名の顧客との関係が悪化し、契約は解約されてしまった。この五名は一〇年満期の生命保険に加入しており、全員が満期まで五年から七年も残していて、この五名だけで毎月の保険料の額は約二〇万円に達し、同控訴人のマージンはその二割の約四万円であった。本件各記事の掲載がなければ、これらの保険は少なくとも更に五年は継続されていたから、これにより同控訴人が得られたはずの収入は二四〇万円となる。
(2) 控訴人飯川壽々子は、菓子販売を営む会社の販売店の店長をしていたが、店顧客に「幸福の科学」の小冊子「ミラクル」を贈呈したり、卸元との取引の際に「幸福の科学」の文庫本を献本したりして、活発に伝道活動を行っていたところ、本件各記事が掲載された結果、「幸福の科学」を誤解した得意客が急激に店を離れて行き、少なくとも三〇人の得意客が来店しなくなって、これだけでも月額一〇万円以上の売上減少となった。平成三年七月から一二月までの六か月間の減少の総額は、少なくとも五五万円以上にのぼる。平成四年、五年も売上げは下降線をたどり、店は平成六年三月をもって閉店し、これを機に同控訴人も退社することになった。
(3) 控訴人小野澤智子は、自営で食品の卸売の仕事をしている。得意先等に「幸福の科学」の紹介をし、約二〇名が会員になっていたが、本件各記事により信用を失い、平成三年八月頃から売上げは急激に減少した。同年上半期の平均売上月額約二四〇万円を基準として、本件各記事による売上げの減少額を算出すると、同年末までの合計額は約二〇四万円にのぼる。
(4) 控訴人梶原家富は、電気工事や電気製品販売を営む会社の代表取締役であるが、社員、取引先、友人、知人、親類などに献本したりして、伝道活動を行っていた。ところが、平成三年九月、被控訴人島田執筆の「月刊現代」の記事で「幸福の科学」を誤解した有力取引先から改宗を迫られ、このことが契機となって不信感を持たれ、受注額が激減した。平成三年一〇月から一二月までだけでも、受注額の減少は約一二八万円にのぼった。
(5) 控訴人金枝正明は、経営していた薬局で、薬品販売のかたわら幸福の科学出版の代理店として書籍を販売し、伝道活動を行っていたが、本件各記事が掲載されたため、店の来客が急激に減少し、また、誌友会員である客のうち八名が退会した。店の売上げは、平成三年七月までは六〇万円を割ることはなかったのに、右六〇万円を基準にすると、八月から一二月までだけでもその減少額の合計は約一三九万円にのぼる。一度失った信用は取り戻すことができず、翌年一二月には閉店に追い込まれた。
(6) 控訴人坂下和子は、その経営するスナックに「幸福の科学」の月刊誌や小冊子「ミラクル」を置いて自由に持ち帰れるようにし、従業員や客に献本するなどして伝道を行っていたが、本件各記事が掲載されるようになって客や従業員の間に不信感が広がり、常連客の足が遠のき、従業員も四人がやめてしまった。前年同月と比較すると、平成三年八月から一二月までの売上げの減少は約三四九万円にのぼる。
(7) 控訴人坂下房枝は、夫とともに、「幸福の科学」の会員の憩いの場を作ろうと、喫茶店の経営を始めた。店内には「幸福の科学」の書籍を置いて自由に読めるようにし、小冊子「ミラクル」を客に贈呈したり、幸福の科学出版の代理店として、書籍の販売を行ったりし、二〇名以上が会員となる機縁を作った。ところが、本件各記事の掲載以後、「幸福の科学」会員以外の客足が途絶え、会員の来店まで少なくなって、売上げは平成三年七月頃から急激に減少した。前年の同じ月と比較すると、七月から一二月までだけでも約二〇三万円の損害を受けた。
翌平成四年になっても、去って行った客は戻らず、前年対比で一月から六月までの間に各月三〇万円以上の売上減となり、閉店のやむなきに至った。平成三年七月からの合計損害額は約四〇〇万円にのぼった。
(8) 控訴人清水修は、その経営するレストランに本棚を設置して「幸福の科学」の書籍を一〇〇冊程置き、各テーブルにも小冊子「ミラクル」を置いたり、客に積極的に「幸福の科学」の話をしたりして伝道し、更に幸福の科学出版の代理店として、レストラン内で書籍の販売もするようになった。ところが、本件各記事が掲載されてから、これを読んで「幸福の科学」を誤解した客が来店しなくなって、売上が激減した。本件各記事が出る前の売上げは毎月一〇〇万円以上あったが、平成三年八月からは七〇万円以下になり、同年中だけで一五〇万円以上の損害を被った。
(9) 控訴人直江一幸は従業員四名を使って水道工事の会社を経営している者であるが、得意先の担当者に「幸福の科学」の書籍を献本するなどして伝道活動を行い、一〇名以上の入会者が出ていた。しかし、本件各記事が掲載されるようになってから、従前毎年二〇〇万円近くの取引が続いていた得意客が「幸福の科学」に対する誤解から取引を中止してしまい、これにより同控訴人は巨額の損害を被った。
(10) 控訴人中島代史江は、その経営するレストランに「幸福の科学」のポスターを貼り出し、店内に「幸福の科学」の書籍を置くなどして伝道活動を行い、従業員が全員誌友会員となったほか、客の中から会員となる者が二〇名位あった。ところが、本件各記事が掲載された平成三年八月頃から、客や従業員の間に「幸福の科学」に対する不信感が強まり、客足は激減し、最も優秀な調理人が辞めてしまった。同年七月までの売上げは毎月三五〇万円を下ることはなかったが、八月以降一一月までの売上げの減少を月額三五〇万円を基準として算出すると、合計約三二〇万円であり、その後も毎月の売上げは三〇〇万円前後に低迷している。
(11) 控訴人西川正男は「幸福の科学」の職員であるが、本件各記事が掲載された当時は兼業の形で広告制作やセラミックスの製造販売をする会社を経営していた。「幸福の科学」に入会したのち、まず、全社員を入会に導き、さらに、全社一丸となって取引先に対し伝道活動を行って来た。しかし、本件各記事の掲載が始まってからは、取引先等に不信感を持たれ、注文も極端に減少した。従前は月額五〇〇ないし六〇〇万円の売上げがあったものが、平成三年九月から一一月までの三か月間は四〇〇ないし五〇〇万円に落ち込んだ。
(12) 控訴人平本靖夫は、企業研修を企画運営する会社を経営し、「幸福の科学」の正会員となってからは、企画した企業研修の中に、その教えのエッセンスを引用し、また、参考図書に「幸福の科学」の書籍を指定するなどして積極的に「幸福の科学」の紹介を行ってきた。平成四年三月、顧客先の会社での役員研修の企画を進めていた際、本件各記事を信じた担当者から「幸福の科学」の書籍を紹介していることを問題にされ、研修の企画が中止になったのみならず、顧客契約も解除されてしまった。研修の年間契約を逃すことによって一二〇万円の売上げを失い、さらに月額五万円の顧問契約も解除されたので、会社の被った損害は数百万円にのぼる。
(三) 伝道の自由の侵害
右(二)の事実によっても明らかなとおり、本件各記事のため、「幸福の科学」や大川隆法に対する誤解が世間に広まり、その結果、控訴人らはその伝道活動を妨げられた。これは、控訴人らの宗教的人格権の侵害に当たると同時に、憲法によって保障される信教の自由の一部をなし、一般条項を通じて私人間でも保護されるところの伝道の自由の侵害(人格権と別個の自由権の侵害)でもある。
(四) 名誉権の侵害
(1) 本件各記事により、「幸福の科学」が「ネズミ講と同じ」(「日刊ゲンダイ」平成三年六月二七日号)、「バブル教団」(「フライデー」同年八月二三日・三〇日号)、「カネ集めと人集めに狂奔している」(同誌同年一〇月一一日号)、「危険な宗教」(「月刊現代」同年一〇月号)、「こんなものがはびこるのは日本の不幸だ」(同誌同号)などと中傷されることによって、その正会員である控訴人らの名誉も著しく傷つけられた。更に、「『幸福の科学』の信徒たちは嘘ばかりつく」(「フライデー」同年九月二七日号)、「九月二日から様々な業務妨害をした会員たち」(「週刊現代」同月二八日号)などと報じられることにより、嘘をつき、違法な行為をするのが「幸福の科学」の会員であるかのように喧伝され、これによっても控訴人らの名誉は傷つけられた。なお、これら記事が世間に流布された時点において、何ぴとが「幸福の科学」の会員であったかは確定することが可能であるから、名誉侵害の被害者の特定に欠けるものではない。
(2) 更に、控訴人景山、同伊東は、「幸福の科学」の会員の中でも特にマスコミ等で世間に名を知られている著名人であるところから、本件各記事のうち次のもので特に名指しで攻撃を受け、その名誉を傷つけられた。
すなわち、
① 「フライデー」平成三年九月二七日号(同月一二日発売)は、「景山民夫氏 小川知子さん『幸福の科学』の信徒たち あんたたちはどうして『嘘』ばかりつくのか」と題する記事において、控訴人景山及び同伊東の顔写真を掲載し、見出しで実名を掲げて右両控訴人を嘘つき呼ばわりした。
② 「フライデー」同年一一月八日号(一〇月二五日発売)は、「『大川隆法が指示した不当行為』と裁判所が認定景山サンを始め『幸福の科学』会員たちの無恥を笑う」と題する記事で、見出しに控訴人景山の実名を掲げて恥知らず呼ばわりした上、本文中でも同人の実名を挙げて、「負けたのに勝ったと宣伝する『大本営発表』の「大ウソをついた」とか、「会員をウソで洗脳」したなどと述べている。
③ 「週刊現代」平成四年六月六日号(五月二五日発売)は、表紙に「島田裕巳特別寄稿『大川隆法と景山民夫は幼稚で危険』」なる見出しを掲げた上、「被告席から見た『幸福の科学』信者裁判危険な子供『大川隆法と景山民夫』を斬る」と題する記事で、顔写真を掲げ、実名を挙げて、控訴人景山が「法廷で被控訴人島田に対して首切りのサインを示し恫喝した」とか「精神的に子供だから自分なりの判断力を持たず言われたことをそのまま鵜呑みにしてしまう人物だ」などと述べた。
一般に、他人の名誉を毀損する内容の記事が不法行為責任に問われないための要件は、(ⅰ)その記事が事実の摘示を内容とするものであるときには、(a)公共の利害に関する事項に関わるものであること、(b)目的が専ら公益を図るにあること、(c)その事実について真実性の証明があるか又は記事公表者において真実と信ずるについて相当の理由があることであり、(ⅱ)その記事が意見表明を内容とするものであるときには、(a)公共の利害に関する事項についてのものであること、(b)意見の形成の基礎をなす事実(以下「意見の基礎事実」という。)が当該記事中に記載されており、かつ、これについて真実性の証明があるか若しくは記事公表者においてこれを真実と信ずる相当の理由がある事実であること、又は、意見の基礎事実が既に新聞、雑誌、テレビ等により繰り返し報道され、社会的に広く知れ渡った事実であること、(c)その意見を当該意見の基礎事実から推論することが不当、不合理でないことを要するものと解すべきところ、前記各記事は、これを事実摘示を内容とするものと見るにせよ、意見表明を内容とするものと見るにせよ、前記免責要件を充たすものでないことが明らかである。なお、控訴人景山及び同伊東が、「幸福の科学」の会員を代表する人格として扱われ、信徒全体と同一視されなければならない理由はないから、ひろく「幸福の科学」会員の行為について右両名が誹謗を甘受すべきものということはできない。
本件各記事特に前記①ないし③の記事が掲載されたために、控訴人景山、同伊東は、その外部的名誉を著しく毀損されるとともに、その名誉感情をも甚だしく傷つけられた。すなわち、控訴人景山は、社会問題について発言する言論人として、雑誌の連載対談や継続的執筆の仕事、レギュラー出演していたテレビ番組の仕事などを突然打ち切られ、あるいは新規の仕事が全く入って来なくなり、著書の売れ行きも著しく低下し、さらに電話等による嫌がらせや揶揄を受けた。また控訴人伊東やその身辺の者は、電話等による執拗な脅迫や揶揄に苦しめられたほか、出演した番組が放送されなくなったり、女優としての仕事が全く入って来なくなったりした。
7 よって、各控訴人は、主位的には大川隆法ないし「幸福の科学」に対する誹謗中傷のために各控訴人が被った精神的苦痛に対する慰謝料又は財産上の損害の賠償の内金請求として、予備的には各控訴人自身の名誉が毀損されたことに対する慰謝料の内金請求として、被控訴人らに対し、連帯して、金一〇〇万円及びこれに対する不法行為ののちである平成四年六月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。(なお、本件各記事の全体の作成・掲載について被控訴人らの間に共謀が存したことが認められない場合には、各雑誌ごとにその記事の作成・掲載に関与した被控訴人らにつき共同不法行為が成立するものであり、この場合、各控訴人は、同じく内金請求として、「フライデー」関係の被控訴人早川、同元木、同野間、同講談社に対しては連帯して金二五万円、「週刊現代」関係の被控訴人森岩、同野間、同講談社に対しては連帯して金二五万円、「月刊現代」関係の被控訴人島田、同佐々木、同野間、同講談社に対しては連帯して金二五万円、「日刊ゲンダイ」及び「スコラ」関係の被控訴人野間、同講談社に対しては連帯して金二五万円及びこれらに対する平成四年六月六日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。)
二 被控訴人らの主張
1 訴権の濫用
原判決二一頁一行目から同二二頁四行目までに記載されたとおりであるから、これを引用する(ただし、右引用部分中「大川主宰」とあるのをいずれも「大川隆法」と改める。以下の原判決引用部分についても同じ。)。
2 訴えの変更の不適法
控訴人らが控訴審で行った、実名入り記事による控訴人景山、同伊東の名誉権の侵害を原因とする請求の追加は、従前の請求との間に請求の基礎の同一性を欠くものである上、従前の請求の審理が終結に近い段階でなされたもので、著しく訴訟手続を遅滞させるから、右訴えの変更は許されない。
3 控訴人らの主張する法的利益の被保護適格・被害の間接性・違法性阻却
次のとおり付加するほか、原判決二六頁一行目から同二九頁八行目までに記載されたとおりであるから、これを引用する(ただし、右引用部分中「本件記事」とあるのをいずれも「本件各記事」と改める。以下の原判決引用部分についても同じ。)。
(一) 控訴人らの、本件各記事によって名誉を侵害されたとの主張は、その内容において、宗教上の人格権侵害を言い換えたものにすぎないから、右人格権侵害を理由とする請求と同様に理由がない。
(二) 布教宣伝活動の妨げになるようなものをも含め、宗教に対する批判行為は、本件各記事のように表現行為にとどまる限り、違法性を帯びるものではない。
(三) 本件各記事中で、「幸福の科学」の信者のうち、特に控訴人景山、同伊東の名を挙げたのは、両名が「幸福の科学」がその信者を組織して活動させている被害者の会の会長及び副会長として先頭を切って被控訴人らに対する攻撃を行い、また、事あるごとに教団、信者を代表するスポークスマンとしてマスコミに登場し発言してきた者であって、自ら教団の顔となって、教団と信者に対する批判・論評を引き受ける立場に立つことを承認したものとみられるからである。すなわち、右両名が問題にしている「週刊現代」及び「フライデー」の記事は、右両名個人について何らかの具体的な事実を述べたものではなく、右両名を「幸福の科学」あるいはその信者を象徴し、代表する存在として取り扱っているにすぎないから、これによって両名の外部的名誉や名誉感情などの個人的法益が害されるとは考えられない。なお、右各記事の見出しも、記事中の記述内容を総括し、「幸福の科学」とその信者の運動を批判する論評を行ったものであって、違法性は認められない。すなわち、「フライデー」平成三年九月二七日号の記事の見出しは、記事中に記載した、教団及びその信者が平成三年九月にひき起こした業務妨害事件につき多数の嘘を述べ続けてきたという事実を基礎とする意見表明であり、「嘘ばかりつく」という論評は推論の相当性を逸脱するものではない。「フライデー」同年一一月八日号の見出しは、仮処分事件につき裁判所が「幸福の科学」の行動を支持したかのような宣伝を行い、信者らを煽動していることに対する批判的論評であり、相当である。また、「週刊現代」平成四年六月六日号の見出しは、被控訴人島田の、「幸福の科学」とその信者らの運動の危険性を指摘した事実に基づく論評を総括したものであって、相当である。
(四) 控訴人らの主張する営業活動を阻害された被害は、本件各記事の掲載等によって当該控訴人らの営業につき顧客獲得の可能性に悪影響を受けたというものであるが、一般に、顧客がどの商人から商品を購入し又はサービスの提供を受けるかは、市場経済における自由競争における顧客の自由意思に基づき決定されることであり、顧客獲得には多様かつ不確定な要素が多分に影響するのであって、右のような営業上の利益は具体性を欠き、不確実なものであり、法により保護される利益とはいえない。
また、本件各記事は、「幸福の科学」又は大川隆法を対象としたものであって、控訴人らを対象としたものではなく、右記事の執筆・出版等にあたっても控訴人らの営業を妨害することや信用を低下させることは意図されていない。そして、右執筆・出版等の行為は、その態様においても非権力的、非物理的なものでしかなく、第三者の行為を煽動又は慫慂しているものでもない。これらからすると、控訴人らは、財産的損害においても、間接被害者でしかない。間接被害者で、財産的損害が生じたことを理由に損害賠償を請求できるのは、直接被害者と経済的同一体の関係が存する者等の例外的な者に限られ、本件において控訴人らがこれに該当しないことは明らかである。
4 損害との因果関係
控訴人景山、同伊東が経験した社会的孤立、社会的評価の低下は、被控訴人講談社に対する攻撃やテレビで繰り返し報道された控訴人伊東の絶叫場面などに見られる、右両名が教団を代表して演じた異常な言動によるものであり、本件各記事との間に因果関係はない。
第三 証拠関係
原審記録中の書証目録並びに当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。
第四 当裁判所の判断
一 訴権の濫用の主張について
当裁判所も、控訴人らの本件訴えの提起が訴権の濫用であるとする被控訴人らの主張は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり訂正するほか、原判決の右主張に対する判示部分(原判決三二頁三行目から同三四頁三行目まで)の説示と同一であるから、これを引用する。
原判決三三頁九行目の「幸福の科学が」から同一一行目の「認めることはできず」までを「本件請求が被控訴人らの主張するような業務妨害行為の一環であることを認めることはできず」に改める。
二 請求の同一性・訴えの追加的変更の適法性について
控訴人らの原審以来の請求は、本件各記事のうちの一部の記事により控訴人各自の宗教上の人格権が侵害されたことを理由として、被控訴人らに対し慰謝料の支払いを求めるものであるのに対し、当審で追加された名誉毀損の新主張は、①本件各記事により「幸福の科学」に関する悪評が流布された結果、「幸福の科学」の正会員たる各控訴人が名誉権を侵害されたこと、②本件各記事のうち控訴人景山、同伊東の実名を挙げて批判・攻撃を加えているものについて、これにより右控訴人らの名誉が毀損されたことを理由として、それぞれ慰謝料の支払いを求めるというものである。右人格権侵害(並びにこれも当審で主張の追加された伝道の自由の侵害及び財産権侵害)を理由とする請求と前記①の請求とは、いずれも「幸福の科学」又は大川隆法が本件各記事により誹謗中傷されたことを原因として、信者たる控訴人らに信者たるが故の損害が生じたとし、その賠償を求めるものであるから、訴訟物として同一性を有し、単一の請求を構成するものとみるのが相当であり、各控訴人はそのそれぞれの法益について一〇〇万円を下らない損害が生じたと主張し、総額で一〇〇万円の内金の賠償を求めるものと認められる。したがって、これについて訴えの変更の問題は生じない。これに対し、前記②の請求は、控訴人景山、同伊東が「幸福の科学」の会員であること自体から生じた被害ではなく、同人ら自身の言動に対する個別的な非難攻撃によりその名誉が侵害されたことを理由とするものであるから、右人格権侵害とは様相を異にし、新請求を構成するものというべきである。
被控訴人らは、控訴人らが当審でした名誉権侵害を理由とする訴えの追加的変更(前記②の請求の追加)は、請求の基礎の同一性を欠き、不適法である旨主張する。しかし、問題とされる記事は本件各記事の一部であり、違法と主張されている部分の内容も右控訴人両名の「幸福の科学」会員としての行動に批判を加えているものであって、他の記事と互いに関連しており、一連のキャンペーンを構成するものであることが明らかである。そうすると、右新請求と旧請求とは、その基盤をなす紛争関係を同じくし、訴訟資料の面でも共通するものを多く含むといえるから、その間には請求の基礎の同一性があるものというべきである。また、右追加にかかる請求について審理することによって著しい訴訟手続の遅滞が生ずるともいえない。したがって、この点に関する被控訴人らの主張は理由がなく、本件訴えの変更はこれを許すべきものである。
三 各当事者の地位等
「幸福の科学」が大川隆法を代表役員とする宗教法人であることは、当事者間に争いがない。甲第六号証、第三一四号証、第三六一号証及び弁論の全趣旨によれば、大川隆法は、「幸福の科学」の本尊、預言者として、信者の尊崇を受けていることが認められる。
甲第二一ないし第四〇号証、第一二七ないし第二七四号証、第二七六ないし第三〇一号証、第三〇三ないし第三一三号証、第四〇六ないし第四一七号証、控訴人景山民夫、同伊東知子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、控訴人らはいずれも「幸福の科学」の会員であること、控訴人景山は小説家であり、控訴人伊東は俳優兼歌手であることが認められる。
被控訴人講談社が週刊誌「週刊現代」、「フライデー」及び「月刊現代」を発行する出版社であり、日刊現代社が日刊新聞「日刊ゲンダイ」を、株式会社スコラが旬刊誌「スコラ」を発行していること、被控訴人野間が被控訴人講談社の代表取締役であること、被控訴人元木が、別紙一覧表記載のとおり本件各記事の一部が「フライデー」に掲載された当時、同誌の編集人だった者であること、被控訴人早川が、同一覧表記載のとおり本件各記事の一部(ただし本文部分のみ)を「フライデー」に執筆した者であること、被控訴人森岩が、同一覧表記載のとおり本件各記事の一部が「週刊現代」に掲載された当時、同誌の編集人だった者であること、被控訴人佐々木が、同一覧表記載のとおり本件各記事の一部が「月刊現代」に掲載された当時、同誌の編集人だった者であること、被控訴人島田が、同一覧表記載のとおり本件各記事の一部(ただし本文部分のみ)を「月刊現代」に執筆した者であることは、当事者間に争いがない。
甲第六一号証、第三四五号証によれば、日刊現代社と被控訴人講談社とは資本及び人事交流の面で密接な関係を有していることが、甲第六二号証によれば、株式会社スコラは被控訴人講談社の社員だった久保田裕が中心となって設立した会社であることがそれぞれ認められる。
四 本件各記事の存在
本件各記事のうち、「フライデー」平成三年八月二三・三〇日号、「週刊現代」同年七月六日号に控訴人ら主張のような内容の記事が掲載されていることは、当事者間に争いがない。
甲第三ないし第五号証、第三一五号証ないし第三四四号証によれば、その余の本件各記事が執筆・刊行されたこと、その内容として、控訴人らが主張するような記述が存することが認められる。
五 本件各記事による大川隆法ないし「幸福の科学」に対する攻撃と控訴人らの損害賠償請求権
1 控訴人らは、本件各記事により大川隆法ないし「幸福の科学」が誹謗中傷されたことにより、信者である控訴人らの宗教上の人格権が侵害されたと主張するので、この点について判断する。
一般に、宗教とその信者の精神上の結びつきは、極めて緊密であるのが通常であり、教義上の神格、教祖とされる個人あるいは教団は、その信者によって絶対的あるいは究極的な価値を体現するものと考えられ、宗教の存在意義も、信者に対してそのような絶対的、究極的な価値を啓示し、あるいは自ら保持するところにあって、信者を離れてその存在意義はないのであるから、教義上の神格、教祖、教団が誹謗中傷された場合に信者が受ける精神的苦痛の性質・程度は、信者自身の個人的法益を侵害された場合のそれと選ぶところはないということもできる。「幸福の科学」についても、その本尊とされる大川隆法、教団としての「幸福の科学」又はその教義が誹謗中傷された場合、これによってその信者が相当の精神的な苦痛を味わうであろうことは、推測に難くない。しかしながら、現行法秩序の下において、宗教団体あるいはその教祖などとされる個人に法人格(あるいはこれに準ずる訴訟主体としての適格)が付与され、その法人格自体に帰属する法益の存在すべきことが予定されている以上、その法益に向けられた違法な侵害行為に対しては、まずその法人格自体が自らの権利の行使として侵害の防止や被害の回復を図るべきものといわなければならず、その法益は前記のように各信者の信奉する精神的な価値と重なり合い、これを包摂しているものであるから、各信者は、このような精神的価値に対する侵害を自らの法益の侵害として慰謝料の支払いを求めることはできないものと解すべきである。
したがって、本件各記事により自らの宗教的人格権を侵害されたことを理由とする控訴人らの慰謝料請求は理由がない。
2 次に、控訴人秋山ら一二名は、本件各記事のため営業不信に陥り、財産上の損害を受けた旨主張し、その損害の賠償を求めている。
しかしながら、控訴人秋山ら一二名の主張するところによれば、これら控訴人らは、それぞれその営業活動の機会を利用して「幸福の科学」の信仰の伝道を行っていたところ、本件各記事により「幸福の科学」や大川隆法に対する世人の不信感が醸成された結果、得意先や顧客との関係が円滑を欠くようになり、営業不振に陥ったというのであるが、仮にそのような事実が認められるとしても、それは、右控訴人らがその営業活動を伝道と密接に結合させつつ行ったという事情から生じた損害である。そして、右営業活動に関して教団ないし本尊と信者との間に経済的一体性が存しないことはいうまでもなく、また、このように営利活動と宗教活動を結合させることは社会現象として通常のこととはいい難いから、特定の宗教の宗教活動一般に対する攻撃の結果個々の信者に生じたこのような損害の賠償に関して、信者を直接の被害者たる教団や本尊と同様に当然に保護を与えられるべき地位に立つものとみることはできず、このような間接的損害については、その発生すべきことを加害者において知りつつあえて損害を生じさせた場合でない限り、加害者は損害責任を負わないものというべきである。本件各記事の掲載に際し、被控訴人らが右のような事情を認識していたことを認めるに足りる証拠はないから、その余の点について判断するまでもなく、右財産上の損害の賠償を求める控訴人秋山ら一二名の請求は理由がない。
3 控訴人らは、本件各記事によりその伝道活動を妨げられたと主張する。
伝道活動の阻害が、伝道活動に従事する個人の自由を直接不当に制約するような態様でされたものである場合には、その個人に対する不法行為を構成するものと考えられる。しかし、教義、教団あるいは教祖に対する誹謗・中傷の結果として醸成された当該宗教に対する悪感情や偏見のためにその信者等の伝道活動が間接的に妨げられた場合には、これによって直接被害を受けるのは教団あるいは教祖とみるべきであり、右妨害行為に対する損害賠償請求権を取得するのもこれらの者であって信者等ではないと解するのを相当とする。もとより、このような場合に信者等が相当の精神的苦痛を味わうことがあるであろうことは推測するに難くないが、その原因が教義、教団、教祖に対する違法な攻撃にある以上、直接の被害者であるこれらの者の権利行使による紛争の解決を期待すべきものと考えられるからである。控訴人らの主張にかかる本件各記事による控訴人らの伝道活動の阻害は、「幸福の科学」あるいは大川隆法に対する誹謗・中傷に由来するものであるから、控訴人らはこれについて被控訴人らに対し損害賠償を求めることはできない。
4 次に、控訴人らは、本件各記事により、「幸福の科学」の正会員としての控訴人らの名誉が毀損されたと主張する。
しかしながら、右損害は、主として、「幸福の科学」又は大川隆法が誹謗中傷され、その名誉を傷つけられることにより、信者たる控訴人らも自らに対する社会的評価を低下させられたとするものであり、このような社会的評価は、「幸福の科学」あるいは大川隆法に対する社会的評価がこれらと一定の社会的関係に立つ控訴人らの上に投影された結果とみるべきものであって、「幸福の科学」又は大川隆法が自らその権利を行使して名誉を回復することにより、控訴人らの名誉もまた回復される性質のものであるから、その被害は間接的なものというべきであり、控訴人らはこれによる損害の賠償を求める権利を有しないものと解すべきである。なお、本件各記事の一部には、「幸福の科学」の会員一般を揶揄又は批判する内容のものもあるが、これらは、具体的事実を摘示するものでなかったり、あるいは会員のうちの不特定の者の名誉を毀損するものであったりするため、これにより控訴人らの名誉が直接毀損されたものとは認めることができない。
六 控訴人景山、同伊東個人に対する名誉毀損行為に基づく損害賠償請求について
1 甲第三三〇号証、第三四〇号証、第三四四号証によれば、被控訴人講談社発行の「フライデー」平成三年九月二七日号、同誌同年一一月八日号及び「週刊現代」平成四年六月六日号に後記のとおり、それぞれほぼ右控訴人らの主張するような内容の記事及び表紙見出しが掲載されたことが認められる。
2 そこで、右各記事が右控訴人らの名誉を毀損するものであるかどうかについて検討する。
(一) 「フライデー」平成三年九月二七日号
同号掲載の記事(以下「記事①」という。)は、「景山民夫氏、小川知子さん『幸福の科学』の信徒たち あんたたちはどうして『嘘』ばかりつくのか」という見出しを掲げ、控訴人景山、同伊東の顔写真をも掲げている。本文は、「幸福の科学」側が同誌の記事に関して行った、「(1)(被控訴人講談社に対する)電話、FAX作戦は指示していない、(2)石原秀次の(大川隆法がノイローゼだったとの)発言は捏造だ、(3)被控訴人講談社と真如苑は癒着している」との発言は嘘であり、追い詰められた「幸福の科学」は、控訴人景山、同伊東を被害者の会の会長、副会長に就任させ、世論に訴える作戦に出ている、という内容のものである。
右記事の見出しは、控訴人景山、同伊東が、ある事項について嘘をついているとの印象を読者に与えるものであり、かつまた右控訴人らを直接侮辱する言明であって、顔写真と相まって、控訴人景山、同伊東の名誉及び名誉感情を毀損するものである。
ところで、事実を摘示する記事によって人の名誉を毀損した者は、当該記事が公共の利害に関するものであること、その掲載がもっぱら公益を図る目的に出たものであること及び当該記事の内容が真実であるか、これを真実と信ずる相当の理由があったことを証明した場合に限り、不法行為責任を免れることができるところ、記事①は、その直接取り扱っている事柄はともかく、これを本件各記事全体の流れの中でみるときは、教義の正邪、宗教活動の当否等を論ずるキャンペーンの一環とみることができるから、公共の利害に関し、公益を図る目的をもって掲載されたものとみることができる。しかし、右見出し部分の真実性あるいはこれを真実と信ずる相当な理由があったことは、被控訴人らにおいて主張・立証しないところであるのみならず、そもそも右記事の本文は前記のようなものであって、「幸福の科学」が本文に掲げた前記(1)、(2)、(3)の三つの事項について嘘を言い、また、控訴人景山、同伊東を使って嘘の宣伝をしている、というのみであり、控訴人景山、同伊東について、いつ、どこで、どのような内容の嘘をついたかを明らかにしていないから、見出しと本文の内容との間に整合性を欠き、具体的な根拠の曖昧なものになっている(しかし、このことの故に、右見出しが事実の摘示でなく、意見の表明の性質を持つものということはできない。)。この点について被控訴人らは、控訴人影山、同伊東は「幸福の科学」ないしその信者のスポークスマンとしてその実名を挙げたものであると主張するが、右両名と「幸福の科学」との関係がどのようなものであるにせよ、右記事自体の内容は個人としての右両名の名誉を毀損するものであることが明らかであるから、右主張の点は免責の根拠となり得るものではない。したがって、右見出しを掲載した被控訴人講談社、その編集に当たった被控訴人元木は、損害賠償責任を免れないものというべきである。これに対し、被控訴人野間については、同人は被控訴人講談社の代表取締役であるとはいえ、現実に記事①の執筆を担当した者を選任し、又は右記事の内容に関して右担当者を指揮監督すべき地位にもあったことを認めるに足りる証拠はないから、民法七一五条二項にいう代理監督者として右記事の内容につき責任を負うものということはできない。控訴人らは、同被控訴人が代表取締役として不法な出版や出版物の販売を中止するための措置をとるべき義務を負うと主張するが、右のような義務は上記の指揮監督権限の存在を前提として初めてこれを認めることができるものであるから、右主張は採用することができない。その余の被控訴人らについては、これらの者が記事①の掲載について共謀していたとの控訴人らの主張事実を認めるに足りる証拠はないから、これらの者につき本記事の掲載についての責任を問うことはできない。
(二) 「フライデー」平成三年一一月八日号
同号掲載の記事(以下「記事②」という。)は、「景山さんを始め『幸福の科学』会員たちの無恥を笑う」と題し、本文において、「一〇月二〇日『フライデー全国被害者の会』で、同会会長を名乗る控訴人景山は、被控訴人講談社の仮処分申請が却下されたことを第一回の勝利だと報告したが、東京地裁の決定の理由は、教団側の被控訴人講談社に対する業務妨害等の違法性は認めた上で、さしあたり仮処分の必要性を否定したもので、景山発言は裁判所の見解をねじ曲げたもの」だと述べるものであって、控訴人景山を「無恥」と評し、同人が仮処分却下決定における東京地方裁判所の見解をねじ曲げて報告したとの事実を述べる点で、同控訴人の名誉を害する内容のものである。
このうち、本文の記述が見出し部分の前提になっていると考えられるので、まず、その違法性について検討する。本文の核心をなす、「景山発言は裁判所の見解をねじ曲げたもの」という記述内容の当否は、端的な事実の存否の問題ではなく、右決定そのものを「幸福の科学」側の敗北と評価することができるか、という問題に帰着する。そして、弁論の全趣旨によれば、右景山発言において言及されている東京地方裁判所の決定は、被控訴人講談社が「幸福の科学」及び大川隆法を相手どって申し立てた同裁判所平成三年(ヨ)第五三四六号業務妨害禁止仮処分申立事件につき同裁判所が同年一〇月一八日にした決定であると認められるところ、乙第六号証によれば、右決定は、「幸福の科学」及び大川隆法の指示に基づき、「幸福の科学」会員らが被控訴人講談社に対し不当な抗議行動を行いその業務を妨害した事実は疏明されるが、右抗議行動は同年九月六日をもってほぼ終了しており、今後同様の抗議行動がとられる蓋然性は低いと考えられるとの理由により仮処分申請を却下したものであることが認められ、この間の事情については右記事自体の中でも説明されている。そうすると、右決定は、被控訴人講談社の申請が却下されたという点からみれば「幸福の科学」側の勝利といえなくはないが、決定理由中で、その組織的な抗議行動が違法なものと認められたという点からすれば、実質上の敗北とする見方も可能である。
このように、表明された意見の根拠事実が当該記事中で明らかにされ、その真実性も立証されている場合には、その事実に基づいてそのような見解を形成することが不合理といえない限り、その意見表明について不法行為法上の責任を問うことはできないものと解するのが相当である。本件の場合、前記決定を「幸福の科学」側の実質的な敗北とし、景山発言は事実をねじ曲げたものとする見方が可能である以上、これについて被控訴人らの責任を問うことはできない。
次に、見出し部分については、その内容に照らし、本文の意見表明にその基礎を置き、これをより端的に表現する趣旨のものと考えられる。したがって右のとおり本文について被控訴人らの責任を問うことができない以上、見出し部分についても同様と解するのが相当である。もっとも、「無恥」という表現はいたずらに刺激的で品位に欠けるが、前記事実関係によると、控訴人景山の発言には、事態の実体に対する理解不足と見られる点も存するところからすれば、右表現を侮辱的言明として違法性を帯びるものということはできない。
(三) 「週刊現代」平成四年六月六日号
同号記載の記事(以下「記事③」という。)は、被控訴人島田の寄稿に係るもので、「被告席から見た『幸福の科学』信者裁判 危険な子供『大川隆法と景山民夫』を斬る」と題し、かつ、掲載誌の表紙に「島田裕巳特別寄稿『大川隆法と景山民夫は幼稚で危険』という見出しを掲げ、本文中では、控訴人景山が本件第一審の第一回口頭弁論期日で原告団を代表して陳述をしたこと、本件のような多数原告による訴訟や個人攻撃で威圧しようとするところに「幸福の科学」の危険な体質が現れていることなどを記述するほか、「(法廷で控訴人景山が)私を見つめながら掌を下にして、のどのあたりで……右手を水平に動かした。どうやら首切りのサインだったようだが、『もうお前は終わりだよ』とでもいいたかったのであろうか」「『幸福の科学』の会員たちは、……驚くほど信じやすい人間の集まりである。景山にしても『私たちは正義ぶっているのではなく、私たちこそが正義なのです』という発言にみられるように、自己の主観的な判断をそのまま客観的な事実であると主張すれば、そのまま通ると本気で考えているようだ。彼らは、自分たちに物事を判断する能力がなく、いわれたことをそのまま鵜呑みにする傾向があるために、一般の人間たちがそれぞれ自分なりの判断力を持っているとは考えもしないのだ。自分なりの判断力を持たず、いわれたことをそのまま鵜呑みにしてしまうのは、彼らが精神的に子供だからである。」などと述べている。このうち、控訴人景山を精神的に子供だと述べる部分は、それ自体同控訴人の名誉を傷つける内容のものではあるが、具体的に事実を摘示するものではなく(精神的に子供だという言葉が、知能あるいは判断力の精神医学的な未発達を指すのではなく、思考の浅薄さや感受性の未熟さを批判する趣旨で使われていることは明らかである。)、意見の表明に当たるものである。また、記事③全体の趣旨からすると、右意見の根拠は、主として同控訴人の「幸福の科学」の教義に対する信仰そのものにあることが示されているものと認められるところ、このような信仰の正邪・真贋に帰着する議論それ自体は、自由な言論に委ねられるべき領域に属するものというべきであるから、右意見表明を違法とすることはできず、また、その表現方法は論争における表現として一般に許容される範囲内のものであり、侮辱的言明に当たるということもできない。しかし、同控訴人が被控訴人島田に対して首切りのサインを示した、とする部分は、事実を摘示するものであり、右事実自体、同控訴人の名誉を傷つける事柄ということができるところ、これについて、(一)で述べたような免責要件が具備していたことについての主張・立証はない。したがって、被控訴人島田は、右記事による名誉毀損により控訴人景山の被った損害を賠償すべきである。次に、その余の被控訴人らの責任について考えると、本文に関していえば、このような執筆者名を明示した記事については、その刊行物の編集人等は、その記事の内容の真実性を疑うべき特別の事情がある場合でない限り、記事の内容の真否を確認する義務を負わないものと解すべきところ、記事③の右違法とされる部分の掲載に関しては、控訴人側の主張する共謀の立証はもとより、右特別の事情があったことの立証もない。また、記事③の見出しの控訴人景山に関する部分は、本文の趣旨にほぼ沿ったものであるということができるから、これについて編集人等が独自に責任を負うべきものということはできない。結局、記事③について不法行為責任を負うのは被控訴人島田のみであって、その余の被控訴人らの責任を問うことはできない。
3 損害額
(一) 記事①による損害
控訴人景山は小説家、テレビ司会者などとして、控訴人伊東は、俳優、歌手として、それぞれ広範な活動を営んでいる著名な人物であり、右両名の本人尋問の結果にも照らせば、右両名は、記事①により、その社会的名声と名誉感情を少なからず傷つけられ精神的苦痛を受けたものと認められる。しかし、右記事の、同控訴人らが嘘ばかりつくという部分は、それ自体としてはやや具体性を欠いており、また、右記事全体を読んでも、右部分の具体的根拠といえるような記述はないことをも考慮すると、右記事による名誉毀損につき同控訴人らが支払いを受けるべき慰謝料の額はそれぞれ二五万円(これは、各雑誌ごとの関係者の範囲を超えて被控訴人ら全員の間に共謀関係が成立しない場合につき、控訴人らが各雑誌関係者ごとに請求する金額の上限でもある。)をもって相当とする。
(二) 記事③による損害
控訴人景山の前記のような社会的地位と記事③のうち名誉毀損に当たる部分の内容に照らせば、右記事につき同控訴人が支払いを受けるべき慰謝料の額は一〇万円をもって相当とする。
七 以上によれば、控訴人らの原審以来の請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当である。控訴人らの当審における新請求については、控訴人景山、同伊東の請求は、右控訴人両名において被控訴人講談社、同元木に対し連帯して金二五万円及びこれに対する平成四年六月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを、控訴人景山において被控訴人島田に対し金一〇万円及びこれに対する平成四年六月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度では理由があるものとして認容し、その余は失当として棄却すべきであり、また、その余の各控訴人の請求は棄却すべきである。よって、本件控訴を棄却し、控訴人景山、同伊東の当審における新請求を前記の限度で認容し、控訴人らのその余の新請求を棄却することとする。
訴訟費用の負担については、控訴人景山、同伊東と被控訴人講談社、同元木との間では、訴訟費用を第一、二審を通じて四分し、その三を右控訴人らの、その余を右被控訴人らの各負担とし、控訴人景山と被控訴人島田との間では訴訟費用を第一、二審を通じて一〇分し、その九を右控訴人の、その余を右被控訴人の各負担とし、以上を除く各当事者間では、控訴費用を控訴人らの負担とする。
なお、この判決は、控訴人景山、同伊東勝訴部分に限り、仮に執行できるものとする。
(裁判長裁判官加茂紀久男 裁判官鬼頭季郎 裁判官三村晶子)
別紙被告講談社による幸福の科学関連記事の見出しと新聞広告の見出し一覧表 その一〜その六<省略>